▼プロフィール
株式会社HERP 代表取締役
庄田 一郎
京都大学法学部卒業後、リクルートに入社。 SUUMOの営業を経て、リクルートホールディングスへ出向後、エンジニア新卒採用に従事。その後、株式会社エウレカに採用広報担当として入社後、同責任者に就任。カップル向けコミュニケーションアプリ『Couples』のプロダクトオーナーを経て、2017年3月に株式会社HERPを創業。
【庄田さん幼少期】
▼松井
庄田さんとは、リクルート社からエウレカ社へ転職される際に支援したのがきっかけで、すでに10年近いお付き合いになるのですが、庄田さんの転職相談に乗った初対面時に、メチャクチャ心を開いてくれなかったことを覚えています(笑)。
また、学歴・実績・コミュニケーション能力といったスペックの高さがあるにも関わらず、ご自身のことを「コンプレックスの塊」だと言っていたことが印象的でした。
庄田さんは、一定のトガリがあった時期から転職や起業を経て、かなり人柄がマイルドになった印象があります。
▼庄田
最初は、メチャクチャ様子を見ていました。というよりも、昔から人を見てしまうタイプなんですよ。人を見る癖がついたのは、自分の強いコンプレックスが原因です。基本的に「自分はまだまだダメだ」と思い続けてきた人生で、「もっとやれる」「もっと良くならないとだめだ」という根拠も正確な目標もない漠然とした“不安”を持ち続けてるところがあります。そのコンプレックスが芽生えたのは幼少期の経験がベースだと思っていて、元を辿ってみると両親のコミュニケーションが「あなたは努力をしていないのでもっと頑張りなさい」というような基本姿勢だったことにあると思います。だからこそ、周りの人たちをよく観察して、「どうやったらあんな風にできるんだろう?」と、よく考えるタイプになりましたね。勉強やスポーツに関してはもちろんですが、コミュニケーションにおいてもコンプレックスが強くて、先天的にコミュニケーションが得意な人たちと接する度に「すごいなぁ」とか「どうやったらあれができるようになるのかな」とか考え続けていました。逆に、誰かと二人きりになるのが苦手で、「ここで何を話すことが正解なのか?」と考えてしまうが故に何も言えなくなるというようなことも昔は少なくありませんでした。
▼松井
そのような原体験から、人を観察するようになったのですね。ただ、庄田さんの場合は、その後、コミュニケーション能力も高くなり、勉強やスポーツでも一定の結果が出たように思います。結果が出ると、コンプレックスも解消するようにも思いますが、そのような事もないですか?
▼庄田
コンプレックスは、全然消えなかったですね。大学に進学してからもそうですし、社会人になってから、更に強くなった気がしています。周囲にいろんな角度でレベルが高い人たちが多い環境だったからこそだとは思うのですが、「自分の方ができている」と思わないと不安になるみたいな性格は今後あまり変わっていかないのかもしれません。自分のなかで常に仮想ライバルなどを設定しては「どうやったら勝てるだろう?」「どうやったら彼/彼女の良いところを盗めるだろう?」というような、問答をエグいレベルでやってきたと思います。
【初対面における印象】
▼松井
たしかに、初対面時の庄田さんの様子見は、エグかったです(笑)。
また、ご紹介したエウレカ社の面接に同席した際も、創業者で当時代表だった赤坂優さんが、1時間半以上かけて話をしていても、庄田さんはそこまで心を開かず、面接後の喫煙所や会食でのやりとりを通じて、徐々に心を開いていったように思います。
その後のエウレカ社メンバーとの深い関わり方や、今の庄田さんのオープンマインドな姿勢を見ると、信じられない部分もありますが、それだけ元々は壁を作るというか、慎重なタイプだったんですね。その「人を見てしまう」や「トガリ」の部分は、エウレカ入社後、段階的にマイルドになっていったのでしょうか。
▼庄田
やはり創業者の赤坂さんや共同創業者の西川順さんから大きな影響を受けましたし、メチャクチャ学ばせていただきました。リクルート時代よりも、視野が広がった部分があると思います。一方で、「トガリ」の部分はなかなか消えなかったです。“終わりなき戦い”を一人で継続しているような。それがマイルドに変化していったのは、起業してHERPを設立してからだと思います。
【HERP社の創業時】
▼松井
起業して「トガリ」が抜けて、徐々に丸くなったんですね。
▼庄田
そもそもHERP創業時は、「トガリ」と「何もわからないが故の無謀さ」があったので、起業という「非合理的な判断」ができたのだと振り返っています。
そこから、徐々に、自分のアイデンティティに関する物事への優先順位が下がりました。自分個人とHERPという法人格がほぼ一緒になって、自分が「どう思われるか」よりも、HERPに入社したメンバーに機会を提供したい気持ちや、チームにおける化学反応を起こしたいという意識のほうが強くなっていきました。
創業当時は同世代の起業家・経営者に「負けたくない」という意識はありましたが、今は個人はどうでもよくて、会社として「負けてはいけない」といった意識になっています。
▼松井
起業家に限らずですが、人は成熟してくると、ベクトルが自分から外に向いていくような気がしますね。また、そのような人のほうが、周りから応援されるので、大きな仕事ができるのかもしれません。
【HERP社の現状】
▼松井
もともと採用分野にフォーカスして起業したと思いますが、今はもう少し人事領域全般に目が向いているのですか?
▼庄田
そうですね。今は、採用そのものよりも、もう少し広い概念で事業づくりに取り組んでいます。そもそも、いわゆる“HRTech”は特殊な領域だと思っています。差別化がしづらく、自由競争が激しいです。その中で、顧客やマーケットからの学びを続けながら、HERPらしさを出していきたいです。
▼松井
差別化が難しいHRTech領域における、HERPの強みとは何だと思いますか?
▼庄田
HERPは「企業は人で決まる。人は経験で決まる。」を信念として掲げています。これは真理だと信じていますし、HERPの最大の強みはメンバーの力だと思います。もともとHERPは、大企業からの転職者や、新卒に近い若手メンバーが多い組織です。創業当初は「学歴がとても高く、頭脳明晰で地頭ももちろんよいものの、HRTechおよびスタートアップにおけるキャッチアップが必要なメンバーが多い」といった特徴がありました。ただ、HERPの場合は、あらゆるメンバーにどんどん仕事や権限を任せますし、年功序列を問わずお互いにフラットに指摘しまくります。そうした環境に身を置くと、もともとポテンシャルが高いメンバーは、強烈に成長をします。そういった会社の経験を通じて「人は経験で決まる」と思っていますし、そんなメンバーたちの活躍のおかげで今があるので、「企業は人で決まる」と自身の経験からも深く感じています。
今の世の中、専門的なスキルはどこかのタイミングで相対的価値が徐々に下がっていくと考えていますが、人間力の価値は衰えないと個人的には感じていて、引き続き今後もスキルの成長だけでなく人としての成長機会も広く作っていきたいと思っています。
▼松井
リクルート社の有名な社訓に「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」 がありますが、それに近い感覚かもしれませんね。やはり庄田さんは、リクルート社の影響もかなり受けているのでしょうか。
▼庄田
そうですね。特に、「チームで仕事をすること」「自分たちで決めること」などの考え方は、リクルート社での影響を強く受けていると感じています。
だからこそ、当事者意識を持った上で、大きな仕事もできるのだと思います。
【HERP社の採用】
▼松井
庄田さんは、人の成長への関心が高く、プロダクトとしてもHRTech事業を行っている。まさに、人材領域のプロだと思うのですが、自社の採用で大事にしているものは何でしょうか?
▼庄田
採用基準としては、全職種共通で課題解決能力・自己理解の深さを見ています。このような素養がある人たちは、HERPの組織テーマである「ユーザー成果」に真っ直ぐに向かえる客観性と、自律的に成果創出する力強さがあります。
また同時に、学ぶ力も高いので、多くの役割をこなしながら事業全体を見渡す視座も獲得していっているように感じます。社会人として突き抜けた“スーパーな人たち”みたいな話ではありますが、そういった人たちは押し並べて成果を出しているし、何より大きく成長しているなと感じますね。
▼松井
実績を出した人は、「まだ通過点だと考えて、さらに成長や実績を求めるタイプ」と「自己肯定感が上がり、自己否定しなくなるタイプ」の2パターンに分かれる気がするのですが、HERPに前者タイプのメンバーが多いのは、なぜなのでしょうか。
▼庄田
まずは「HERPという組織でとにかく偉くなりたい、認められたい」という欲求を抱えているタイプがほとんどいないからだと考えています。そんなことよりも、ユーザーのため、世の中のために、価値を作っていこうという姿勢です。組織全体としてこういった考え方をしているのは、経営陣のキャラクターと、これまでの組織成長のプロセスにおける対話を通じての学びによって会社としてのカルチャーになっているからだと思います。「社内でどう思われるか」よりも、「どんな価値をユーザーに届けられるか」をメンバーそれぞれが大切にしています。ベクトルが自分ではなく、顧客や世の中に向いているからこそ、「まだまだ」と思えて成長や実績を求めることができているのかもしれません。
▼松井
それだけ優秀で人間性が優れたメンバーだと、採用競争が激しいと思うのですが、その採用競争の中でHERPが勝ち抜けるのは、どこがポイントなのでしょうか。
▼庄田
まさに『スクラム採用』(※)を自分たちが全力で実践しているからこそ、求職者体験の品質が高いというところだと思います。 ※スクラム採用…株式会社HERPが提唱する、現場社員を巻き込むことで有効母集団の増加・内定受諾率の向上・ミスマッチの削減といった採用の質的改善を実現する採用手法。
HERPの選考プロセスでは、候補者のみなさまに体験入社をお願いしており、社員と同じ環境で組織と事業を理解する機会を提供しています。その期間中に社内のやりとりや各メンバーとの1on1を通じて、直接会社を理解していただくことを大切にしています。また、オファーレターの内容においても、選考プロセスでやりとりした面談者の一人ひとりから、とても細やかなフィードバックが含まれています。求職者の方に合わせた求職者体験を一人ひとり提供することにコミットしていること、情報の透明性のようなところが、他社とは少し異なる強みなのかなと思います。「選考体験が良かった」というお声をいただけることも多いです。
【HERP社の今後】
▼松井
そういう良いメンバーが集まっている中で、今後、HERPをどのような会社にしていきたいとお考えですか。
▼庄田
「自分たちで決めること。チームで進めること。」を引き続き大事にしていきたいです。
特に「自分たちで決める」に関して、これまではリスクを取る意思決定を経営陣が中心となって行ってきたのですが、今後はメンバーそれぞれにも重要な意思決定の機会を提供していけたらと考えています。それがメンバーたちにとってさらなる成長に繋がるからです。
▼松井
庄田さんが先ほど何度も発言しているように、やはり「人の成長」が強い関心事なのですね。
▼庄田
そうですね。私の古巣であるリクルート社では「人材開発会議」という会議体があり、全従業員のキャリア設計をテーマにボードメンバーが勢揃いして議論する機会があるらしく、HERPもそれくらいメンバーの成長にコミットする会社でありたいと考えています。現状はそういったカルチャーをめざしているまだまだ途中過程なので、今後さまざまな施策を通じて、そんなカルチャーを作っていきたいです。
▼松井
庄田さんがスタートアップで色々な経験をした上で、それでも、リクルート社が大きな影響を与えているのですね。やはり経営者としても、リクルート社の方々には影響を受けているのでしょうか。
▼庄田
さまざまな面で多くの影響を受けていると感じています。リクルート社の経営陣は「シンプルさ」と「人間力」のレベルが圧倒的です。
例えば、全社会議などの場でスピーチする際、事前に何かにターゲットを絞る形で狙いを定めて話すのが一般的ですよね。「誰に」「何を」伝えるか、など。
リクルートの経営陣は、シンプルな話をしながら、マネージャー・スタッフ・アシスタントといったあらゆるポジションのメンバーの心を動かすことができます。そして、その後の飲み会でも、その感動を肴にお酒が飲めてしまうというようなことが起こります。
▼松井
シンプルな話と人間力で、そこまで人の心を動かせるのは凄いですね。
▼庄田
そのリクルート社の影響もあるからこそ、私自身も、人の成長にコミットをする文化を大切に育てていきたいと考えています。私たちは先ほどお伝えしたとおり、ユーザー成果に正面から真剣に向き合っている会社である一方で、「マーケット/ユーザー」と「個人」という関係性しかない状況はある意味かなりストレスフルな環境でもあると思っています。だからこそ、組織への帰属意識だったり、仲間との信頼関係が重要になってきます。難しいチャレンジだとしても「このチームで成果を出そう」とか、「あのメンバーが頑張っているから自分も頑張ろう」と思える気持ちが、ある意味でセーフティーネットにもなると思っています。
「信頼関係が大切である」という共通認識のもと、人間としての相互理解と、それをベースにした成功体験を共有することで、信頼関係のあるチームが生まれると考えています。
日頃よくメンバーにも伝えているのは、「信用は一方通行だけれども、信頼は双方向」ということです。まずは相手を信用する。人に興味を持つ。それが信頼になり、やがてチームや組織力になっていくと思います。
相互理解を深めるきっかけとして、例えば、新たにHERPへ入社したメンバーが1時間ほどかけて「自分語り」をする『meは何しにHERPへ』という企画があります。すべてのメンバーに自分自身を知ってもらうための時間です。社員およそ60名がじっくりと耳を傾けます。
▼松井
入社してすぐのタイミングで1時間の「自分語り」というのは、ややハードルが高くないですか?
▼庄田
「自分語り」そのものの手法も進化しているので、上手くワークしていますね。例えば、ガヤ芸人役となるメンバーを指名して、雰囲気を盛り上げてもらったり、すべてのメンバーが『ニコニコ動画』のように気軽にオンラインでコメントを送ることができるのです。
自分語りの内容は基本的に自由で、幼少期からこれまでの経験とそこで培った価値観に加えて、「これからHERPで何をしていきたいのか」を話す時間がメインです。一人ひとりのバックグラウンドとパーソナリティを、等身大でありのままに理解することができるようになっています。
▼松井
人にこれだけの時間や労力をかけるのって、他の会社ではしないじゃないですか。それだけコストもかかるし、ある意味で、非合理的なのかもしれない。それでも、HERPがやるのは、庄田さんが人に興味があることや、人の成長が最も大事な価値であるという信念なのかもしれませんね。
▼庄田
そうですね。「何を優先するか」「どのようなカルチャーになるか」は、結局のところ創業者や経営陣の考え方や経験から派生する形で醸成される部分もあるかとは思いますが、HERPの場合、「人の成長に寄与すること」が大きな特徴であり、今後も強みとしていきたいと考えています。
▼松井
私自身、もともとHERPという会社は、庄田さんが得意としている「採用」と、共同創業者の徳永遼さんが強みとしている「UX」から生まれた、HRTech企業だと思っていました。要は、二人の強みを合わせて、HERPを作ったのだろうと。
そのような経緯もあるかもしれませんが、そもそも庄田さんが「人」「観察」「成長」というものが幼少期から強い興味・関心領域だったことも強いキッカケになっているように思います。今後も、社内メンバー、顧客だけではなく、日本全体の大きなマーケットに対して、個々人の成長に寄与していただきたいと思います。